ゼノスを攻略するに辺り、必要なものは彼女の情報だ。

 どんな食べ物が好きなのか?
 犬派なのか猫派なのか?
 嫌いなものは?

 そういった好みを把握することが大事だ。

 仮に、ゼノスが野菜嫌いだったとして……
 野菜がメインの料理店に連れて行ったらマイナスになってしまう。

 そういう事態を避けるために、彼女の趣味趣向を知っておきたいのだけど……

「ところで、ゼノスはなにか趣味はありますか?」
「ふふ、どうかしら」

 散歩の途中、何気なく尋ねてみるものの、笑顔であしらわれてしまう。

 彼女は私の意図を察しているのだろう。
 その上で、簡単には攻略させてやらないと、とぼけているのだろう。

 なんて嫌な性格。
 少しくらいヒントをあげてもいいのに。

 さすが邪神。

「そうですね……では、釣りをしましょうか」
「は?」
「釣りですよ、釣り。もしかして、ご存知ありません?」
「いえ、知っているけど……普通、公爵令嬢が釣りをする?」
「趣味は人それぞれなので」

 そんな話をしつつ、公園の奥にある釣り堀へ。

 竿と餌をレンタル。
 その際、いくらかの店員がざわついていた。
 たぶん、私の素性を知っている人がいたのだろう。

 でも気にしない。
 今は、ゼノスを攻略することだけを考える。

 ゼノスと一緒に釣り堀へ移動して、並んで竿を振る。

「……」
「……」

 じっと前を見ているせいか、自然と無言になってしまう。

 でも、これでよし。
 ゼノスと仲良くおしゃべりするところなんで、今はまだ、まったく想像できない。

 だから、まずは肩を並べることに慣れることにした。
 多少、強引な方法ではあるものの、こうすれば無言で一緒にいても問題はない。
 のんびり、ゆっくりと長い時間を過ごすことができる、というわけだ。

「……ねえ」

 釣りを始めて五分。
 ふと、ゼノスが口を開いた。

「なんですか?」
「ぜんぜん釣れないんだけど?」
「まだ始めて五分じゃないですか。そんなにすぐには釣れませんよ」
「つまらないわ」

 そう言って、ゼノスが釣りを投げ出そうとするのだけど……

「あら。神様とあろうものが、もう降参するのですか?」
「……なんですって?」
「神様なのに釣りもできないのですね……くす」

 思い切り挑発してやると、

「誰もやめたなんて言ってないでしょう。釣りなんて簡単よ、すぐに釣ってみせるわ。みせるとも、ええ」

 再び竿を持つゼノス。
 ちょろい。

「今、笑った?」
「いえ、気の所為では」

 さすが神様。
 勘は鋭い。

「……ヒマね」
「私は、そうでもありませんよ」
「なんでよ? あなたも釣れてないじゃない」
「ゼノスと一緒ですからね。一緒に同じことをしている……それだけでも、けっこう楽しいものですよ」
「……そ」

 呆れられたかな?
 でも、再び投げ出そうとしないところを見ると、なんだかんだで楽しんでくれているのかもしれない。

 まあ……

 色々と打算が働いているのだけど、これはこれで楽しい時間だ。
 のんびり釣りを楽しむことにしよう。

「……ところで、どうして釣りなのかしら?」
「そうですね……」

 計算しての行動なのだけど、それは口にしない方がいいような気がした。

 あと、他にも一応理由はある。

「単純に、好きなんですよ」