「はぁ?」

 ゼノスは思い切り怪訝そうな顔に。
 明日の天気は槍ですよ、と言われたような感じだ。

 うん。
 でも気持ちはわかる。

 自分で言っておいてなんだけど、私は正気か? と、たまに自問自答してしまう。

「私を攻略する、って……どういうことかしら?」
「そのままの意味ですよ。あなたの好感度を上げようと思います」

 それが私が考えた、新しい選択肢だ。

 ヒーローを攻略しないとヒロインになれず、悪役令嬢の私は、いずれ破滅を迎えてしまう。
 だから、ヒーローを攻略してメインヒロインに昇格する。

 そういう考えのもと、行動していたのだけど……
 色々と限界と疑問を感じて、ストップ。

 なら、発想の転換だ。

 ゲーム通りに行動するのではなくて、チートツールを使う感じで、根っこの部分から前提を覆してしまえばいい。
 すなわち、この世界を管理する神様……ゲームマスターと仲良くなる。
 そうすることで優遇してもらう。

 ……と、いうことを考えたのだ。

 相手を利用することに変わりはないのだけど……
 まあ、そこはそれ。
 邪神なのだから、そこまで気を使う必要はない。

「……とまあ、そのようなことを考えたのです。我ながらナイスアイディアだと思いますが、いかがでしょう?」
「あなたねえ……」

 思い切り深いため息をつかれてしまう。

「よりにもよって、邪神である私を攻略しようとか、頭がおかしいでしょ?」
「現時点でベストだと思いますが?」
「……」
「……」

 しばらくの間、視線を交わす。
 そして……

「くはっ」

 たまらないといった感じで、ゼノスが笑う。

「あは、あははは! ダメ、なにそれ。笑わせないで、お腹痛い、呼吸できない。死んじゃうわ、あはははっ」

 大爆笑だ。
 そこまで面白いことを言っただろうか?

 相変わらず、この邪神がなにを考えているかわからない。

「ひー、ダメ、死んじゃう。笑いすぎて死んじゃう。なにこの子、頭おかしすぎる。バカよ、バカ。稀代のバカよ」
「そこまで言いますか……」
「言うわよ。今まで、私に命乞いをしてきた人間は星の数ほどいたけど、私を攻略しようなんて考えたヤツは一人もいなかったもの」

 私を奇人変人みたいに言わないでほしい。

「十分に変人よ」
「むう」

 納得いかない。

「でも、人間が私を攻略できるとでも?」
「やってみないとわかりませんよ」
「へえ、言うわね」

 ニィっと、ゼノスは肉食獣のような目をする。
 細く、鋭く。
 殺意さえ乗っていた。

 しまった、怒らせたか?

 ただ、次の瞬間には再び笑顔に戻る。

「まあ、そういうことなら、この散歩ももう少し付き合ってあげるわ」
「ありがとうございます」

 うまく乗せることができたらしい。

 相手は邪神。
 私の目的は、すぐに露見すると思っていた。

 その時、うまくゼノスが乗ってきてくれるか否か。
 そこはわりと賭けだったのだけど……
 どうやら、私は賭けに勝ったみたいだ。

 とはいえ、安心していられない。
 まだスタート地点に立ったばかり。
 ここからが本番だ。

「では、散歩の続きに行きましょうか」

 さあ……これからどうなるか?

 うまくゼノスを攻略できるか? 
 それとも失敗して、破滅を迎えるか?

 答えは……
 神のみぞ知る、というところか。