私は今『銀のうさぎ亭』という食堂で働いていた。
 吹雪の中発見された後で介抱を受け、凍死寸前から生還した私が得た情報。それは、私が倒れていたのは銀のうさぎ亭という食堂の前だったということ。
 いや、それはどちらかというと、敢えてどちらかというとだが、それでも些細な事だろう。

 それよりも重要なのは、ここがかつて私のいた現代日本の東京では無いらしいという事だったのだ。
 建ち並ぶ建物は軒並み石造りの趣ある外観で、まるでテレビや写真で見たヨーロッパの古い街並みのよう。

 豪雪地帯で、今は冬らしく、あちらこちらの屋根なんかに雪が積もっている景色も、なんだか子供の頃に絵本で見た外国の光景を彷彿とさせる。

 最初は日本以外の国にいるのかと思った。何かの事件に巻き込まれて、外国に拉致された挙句放置されたのかと。

 けれど、不思議と言葉は通じるし何故か文字も読めるし書ける。そして、街を行き交う人々は、現代では見ないようなドレスを着ていたり、漫画やゲームの中でよく見るキャラクターのようなファンタジックな格好をしている。中には鎧をまとった怖そうな人とかも。

 それに、髪の色だって、青や緑やピンクなど、まるでどこぞのヴィジュアル系バンドのメンバーのような、信じられない色をしている。どうやら染めているわけではなく地毛らしい。実に華やかで、自然と目を奪われてしまう。

 療養中にリハビリがてらあちらこちらを少しずつ探索し、情報を収集し、この状況について考えた結果、私はある結論にたどり着いた。つまり、にわかには信じられない事だが、私は元いた日本とは別の世界、すなわち異世界とやらに迷い込んでしまったようだ。そうとしか思えない。

 過去にそういう設定の漫画や小説を読んだ事はあるが、まさか自分の身にそれが起ころうとは予想だにしなかった。