あの後、裕一郎の顔に浮かんだ微笑みの理由が恋人の存在ではなかった事や、どうやら彼が自分のファン……かどうかはさておき、1人の大切な読者であった事。『日向ぼっこ』の正体を知ってもなお、作品に対しての気持ちが変わらないでいてくれた事などなどにより嬉しさが限界突破していた恋幸は、スキップするような足取りで裕一郎の後ろをついて歩き彼の車に「お邪魔します!」とウキウキで乗り込んだ。
 そう――……乗り込んで“しまった”のである。彼の、車に。

 狭い車内に二人きり、何も起こらないはずがなく……いや、実際に“まだ”何も起きていないのだが、シートベルトをした瞬間から恋幸は数分前の自分を恨みながら正気を保つので精一杯だった。