「あっ、あっ、えへ……ありがとうございます……」
「いえ、どういたしまして」


 血圧が上昇し夕焼けのように顔を赤くしている恋幸に対し、裕一郎は涼しい顔でお冷を口へ運ぶ。


(……はっ!?)


 言わせてばかりではいけない! 私も作家として、上手い言葉で褒めなければ!
 そんな使命感に駆られて唇を持ち上げたのだから、先ほど彼に忠告されたばかりの『内容』を恋幸が咄嗟(とっさ)に思い出せるわけもなく。


「和臣さ……ゆっ、裕一郎様こそ……!! 前世のお名前も素敵でしたけど、今世でも格調高雅(かくちょうこうが)なお名前ですね……!!」
「……前世?」
「は……、あっ!!」


 軽はずみな失言をしてしまうのは当たり前の流れであった。