(ゆう、いちろう様……)
「……小日向……、“こいさち”……?」
「!!」


 名前を見つめたまま少しのあいだ(ほう)けていた彼女だが、彼――もとい、裕一郎の呟きが耳に届き意識が引きずり戻された。


「っあ、こゆに……こ、“こゆき”! 恋に幸と書いて、“こゆき”と読みます!」
「……恋幸……素敵なお名前ですね」
(ひ~っ!!)


 名前を聞いて当たり障りない言葉で褒める……社会人であれば、飽きるほど繰り返すやり取りだろう。
 しかし例え社交辞令であっても、前世で愛した人の口から落とされる“それ”は凄まじい威力を持っており、恋幸は今にも心臓を吐き出してしまいそうな思いだった。