わざとらしく首を傾げる彼の瞳にはどこか楽しそうな色が(にじ)んでおり、さすがの恋幸も反応を面白がられているのだと察したが、頭で理解できているのと心が追いつくことはまた別の話である。

 否定の意を込めて首を何度も左右に振ると、彼の指先が子猫を愛でる時のように恋幸の顎を甘くくすぐった。


「……っ、」
「……可愛い」
(ひえ〜!! 裕一郎様、甘やかしモードだ!!)
「小日向さん、もう一度キスさせてください」


 反射的に「もちろん喜んで!!」と言いかけて、我に返った恋幸はぎくしゃくとした動きで自身の上着のポケットに片手を入れる。
 真っ赤な顔で黙り込んでごそごそと何か(あさ)り始めた姿に、裕一郎は文句を言うでも返事を催促(さいそく)するでもなく、ただ静かに彼女の長い髪を指先で()いて次の言葉を待っていた。