(へ、変なこと言っちゃった……(あき)れさせちゃったかな……? はしたない女だって、思われて)
「小日向さん」


 空気を支配する静寂のせいで暗い方へ落ちかけていた思考を、裕一郎の低い声が引き止める。

 彼女自身は気付いていないが、良くない事を考え始めていると他でもなくその表情があけすけに物語っていたのだ。
 そして“それ”をすぐに察知した裕一郎は、大きな手で彼女の頭を撫でながら口の端を少しだけ引いて見せる。


「貴女の気持ちも、全てを私に(ゆだ)ねてくれていることも、とても嬉しいです。ですが……ちゃんと私を警戒して、抵抗してください。貴女に“何をしても良い”だなんて、私には思えませんので。……この状況では、説得力の欠片も無いと思いますけど」
「そ、そんなことないです……!」


 恋幸が両手を握りしめたままムキになって否定すると、ほんのわずかに裕一郎の表情が(やわ)らいだ。