彼に触れられているだけで肌の温度は増し、心臓が落ち着きなく跳ねて彼への好意を叫び続け、すぐ側で同じ時間を共有している間、恋幸の中に『余裕』の三文字など髪の先ほども残っていない。
 けれど、


「倉本さんになら、何をされても良いですから……抵抗なんて、する必要を感じません」


 どうしても伝えたいと強く願った言葉だけは、驚くほど簡単に口をついて出た。


「……!!」


 彼女の理性を(かい)さず投げられたそのセリフに対し、裕一郎はぴたりと動きを止めて目を丸くする。
 少しの間を置いてから、彼は何か言いたげに持ち上げた唇をすぐに引き結ぶと、喉仏を大きく上下させて「はあ」と何度目かになるため息を(こぼ)した。