その顔は先ほどまでとは打って変わって普段通りの無表情へ戻ってしまっているというのに、唯一決定的に“違う”ものがあった。


「……っ、」


 ゆっくりとした足取りで再び恋幸のそばに戻って来た裕一郎は、先ほどまでと同じようにすぐ隣へ腰を下ろすと、彼女が今だに両手で抱えていたマグカップを優しく奪い取ってセンターテーブルへ置き、片手で彼女の肩をとんと押す。

 何の警戒もしていなかったせいでその体はいとも簡単に後方へ倒れ、ソファの柔らかなクッション素材が恋幸の背中を受け止めた。
 視界には綺麗な天井が広がっており、裕一郎が(おお)い被さるような体勢で顔を近づけると、恋幸は反射的に肩をすくめる。


「本当に、貴女は可愛い人ですね。少し困ります」
「えっ、こ、困るんですか……?」
「……歯止めが効かなくなりそうで、困ります」


 そう言って唇を塞いだ彼の瞳は、まるで獲物を前にした猛獣のような色を浮かべていた。