恋幸の問いかけに対して彼は何も答えずふいと目を逸らし、胸ポケットからカードケースのような物を取り出した。


「そういえば、自己紹介がまだでしたよね」
「……っ!! あっ!! 言われてみれば……!!」
「まずは互いを深く知るべきかと」
「は、はいっ! ごもっともです!!」


 慌てて彼女もポシェットに入れていた名刺ケースを手に取り、お互いに一枚ずつ中身を交換する。


「では、改めて……倉本裕一郎と申します」
「……くらもと、ゆういちろう……」


 恋幸は、明朝体で印刷された名刺の文字を人差し指で優しくなぞり、ふうと小さな息を吐く。