「……ああ、すみません。大丈夫ですよ。不快になったわけではありませんから」


 そう言いながらも、裕一郎は今だに恋幸の方を振り返ろうとはしない。


「でも、」
「むしろ、逆ですよ」


 彼女の言葉に被さって、なぜか温度を感じさせない彼の声が淡々(たんたん)と言葉を紡ぎ落とした。
 同時に――……カチャン、と金属のぶつかるような音が二人きりの室内に小さく響き、裕一郎はようやく恋幸の方を向く。


「逆、って……」