恋幸は心臓がばくばくと高鳴るのを感じながら、頬に添えられたままでいる彼の手に自分の“それ”を重ねて、(かす)かに震える唇を持ち上げる。


「……倉本さんは、かっこいいなって……大好きだなって、思っていただけです」
「……」


 彼女の返答を聞いた瞬間、呆気にとられたかのように目を丸くして動きを止めた裕一郎は、数秒後に「はあ」と大きなため息を吐いて立ち上がり、恋幸の方を一度も振り返ることなく入り口へ向かうと、扉の前に立ってもう一度ため息を(こぼ)した。

 恋幸には彼の行動が何を意味するのか瞬時に理解することなど困難で、不快にさせてしまったのだろうか? という不安に駆られたまま眉根を寄せて「倉本さん」と愛しい人の背中に呼びかける。