慌てて体勢を整えたものの、反射的に大きな声を出してしまった恥ずかしさから太ももに両手を置いたまま俯く恋幸を、裕一郎は(とが)めるでも嘲笑(あざわら)うでもなく「ふ」と小さく息を吐いてからおもむろに歩み寄り頭にぽんと片手を置いた。


「紅茶と珈琲と緑茶。どれがいいですか?」
「りょ、緑茶がいいです……」
「アイス? ホット?」
「……ぬるめで……」
「わかりました。少し待っていてください」





 社長室内に設置された入り口から行き来できるようになっている真隣の部屋――恐らく専用の給湯室(きゅうとうしつ)だと思われるが、その向こう側へ姿を消した裕一郎は、約5分ほど経った頃にマグカップが2つ載った丸いトレーを片手に戻って来る。