あの後、裕一郎に連れて来られたのはビルの最上階にある社長室だった。

 東西南北の四方向のうち2ヶ所が床から天井まで全面ガラス張りになっており、部屋の奥にどんと構える立派なデスクの前には、恐らく来客用であろう合成皮革(ごうせいひかく)で出来た3人掛けサイズの黒い応接ソファが2つ。センターテーブルを挟んで互いに向き合う形で置かれている。

 部屋の隅に置かれたポールハンガーには見覚えのある裕一郎のジャケットが掛けられており、(まぎ)れもなく彼が『代表取締役』であると理解させられてしまった瞬間、一気に湧き上がった緊張感で恋幸の体は動かなくなってしまった。