「少し待っていてください」
「は、はい」


 彼が手に持っている“それ”は二つ折りの所謂(いわゆる)『ガラケー』と呼ばれる部類の物で、恋幸は今だにバクバクと心臓を高鳴らせながらも「懐かしい!」と心の中で声を上げる。

 裕一郎は慣れた手つきで黒い二つ折り携帯を開くと、親指で何度かボタンを押して自身の耳に当て、数秒の間を置いてから口を開いた。


「もしもし、お疲れ様です。……はい、はい、大丈夫です。……ええ。今、目の前にいます。……はい。彼女は後で私が送るので、先に帰って頂いて大丈夫ですよ。……はい、ありがとうございます。運転、気をつけてくださいね」
「……?」