けれど、見上げた先にある裕一郎の顔はいつも通り変化を見せることは無く、恋幸は自分だけが強く意識してしまっているように感じて恥ずかしさから唇をきゅっと引き結んだ。


「……小日向さん」
「は、はいっ」
「今日は、ここまでどうやって来たんですか?」
「えっと、ほ、星川さんが……」


 彼と、きちんと目を合わせていたい。
 彼に、今の顔を見られたくない。

 そんな2つの感情に揺れ動かされながらも、恋幸は裕一郎の青い瞳を真っ直ぐに見据えたまま、(かす)かに震える声で言葉を紡ぐ。

 しどろもどろな彼女の返答を聞いて、裕一郎は「ああ」と納得するような声を出し胸ポケットから何かを取り出した。