「ずっと恋焦がれた女性を目の前にして、余裕なんてあるわけがないでしょう?」
「えっ……だ、だって、いつも」
「いつもは貴女にバレないように『余裕』ぶっているだけですよ。ほら」
「わっ!?」


 裕一郎は、それでも信じられないと言いたげな顔をする恋幸の体を持ち上げて横抱きの体勢にすると、片手を優しく掴んで自身の左胸に触れさせ口元に緩やかな弧を描く。


「私も、貴女と同じですよ」
「……ほんと、だ……」


 指先の感覚に集中しているのか、恋幸の目線は珍しく裕一郎の顔を逸れて彼の左胸に注がれていた。
 彼女は再度「本当だ」と呟いた直後、花が開くかのようにふわりと顔を(ほころ)ばせる。