ゼロ距離で低く心地良い声に鼓膜を揺らされたせいで脳が痺れ、連続して甘い言葉を浴びせられた事により恋幸は軽いパニック状態に(おちい)り、その結果まともな判断能力を失いかけていた。


(はわわわ、あわ、)


 ついでに言うならば、言語能力も急激に低下しつつある。


「くっ、倉本さんは、」
「はい」
「もっと、ご自分がセンシティブだという自覚を持たれた方がよろしいように思います……」
「……はい?」


 恋幸の真っ赤に染まった顔も、裕一郎の「意味がわからない」と言いだけな表情も、互いに見えていないのが不幸中の幸いだろうか。