「作品も……読みやすい文章を心がけ、読者のことを真剣に考えてくれている」
「……っ、」


 ダイレクトに脳を揺らす低音のせいで、息継ぎすら忘れてしまう。
 全身の血圧が上がる感覚をおぼえながら、まるで全身が心臓になったかのようだと恋幸は頭の隅で考えていた。

 そんな彼女の反応が、裕一郎の口元に三日月を浮かべる。


「……ほら、こんなに可愛い」


 どくどくと体に伝わる振動が自分のものなのか、それとも彼のものなのか。恋幸がそれを知るのは、もう少し後の事だった。