小さく頷いた彼を見てようやくこの時間まで現れなかった理由を理解した恋幸だが、つい先程まで自分が落ち込みきっていたことなどすっかりどうでもよくなる。
 今現在、彼女の頭の中は「スーツがこの世で一番よく似合うなぁ」というハッピーな考えでいっぱいだからだ。

 しかし、


「……あっ、そういえば……!! あの、先日は突然……その、変なことを言ってすみませんでした……!!」


 不意に重大なことを思い出し、恋幸は座ったまま深く頭を下げる。

 けれど、返ってきたのは意外にも「謝る必要はありませんから、顔を上げてください」という言葉で、恋幸は安堵に胸を撫で下ろしつつ言われた通り彼に向き直った。