『なんか、昔の社長に“戻ってくれてる”みたいで嬉しいっす。小日向さんに感謝しなきゃなぁ』
「……」


 ぽつりと落とされた縁人の呟きを拾い、裕一郎はゆっくりと(まぶた)を持ち上げて自嘲するような笑みを漏らした。


「……私が『昔』のように戻ってしまったら、小日向さんに避けられるどころか、」


 裕一郎はそこで言葉を切り、唇を引き結ぶ。


『……倉本さん?』
「時間を取らせてすみません、相談に乗ってくださりありがとうございました。そろそろ切りますね」


 ――……彼が通話終了ボタンを押す寸前、


『あの子なら、倉本さんから離れたりしませんよ』


 真剣な声音で(つむ)がれた縁人のセリフは、裕一郎の耳をすり抜けていった。