縁人の話がピンときていないのか、裕一郎は無表情のまま顎に片手を置きわずかに首を傾げた。
 どうやら“それ”は彼の癖らしく、長い付き合いの秘書(縁人)は心情を察して肩をすくめる。


『なんというか、社長って……完璧で他人の感情になんか左右されない冷徹魔王っぽく見えて、実は人並みに感受性豊かな平凡人間ですよね』
「何を言うかと思えば……当たり前でしょう?」


 裕一郎はため息混じりにそう言って座椅子の背もたれに少し体を預けると、眼鏡を外して長いまつ毛を伏せ、片手で眉間を揉みながら口を開いた。


「感受性云々に関しては自覚が無いので何とも言えませんが……私だって、心当たりもなく好きな女性に避けられれば、人並みに悩んだりしますよ」