彼のセリフを反芻(はんすう)しつつ、なおも冷たい目線を向ける裕一郎。
 しかし縁人は、そんな事は意に(かい)さない様子で2回大きく頷き、口元に三日月型を描いて整った歯列から犬歯を覗かせた。


『そもそも、社長から俺に色恋沙汰の話題を振ってくるレベルで女性に心奪われてるのなんて“今回が初めて”じゃないっすか!』
「……まあ、そうですが……」
『ほら、交際がどうのこうのって話を俺が社長から最後に聞いたのって、例の』
「縁人」


 強い口調で彼の話を(さえぎ)った裕一郎は、先ほどまでとは一転して見慣れた無表情を浮かべている。
 だが“それ”はいつも以上に温度を感じさせず、真っ直ぐに縁人を射抜く冷たい空色の瞳は絶対零度の氷を連想させた。