大人しくされるがままになりつつ顔を(ほころ)ばせる恋幸の姿を見た途端、彼の中に言葉では言い表し難い大きな感情が流れ込み、血液に乗って全身に行き渡るかのような錯覚をおぼえた。
 体温が上昇するのを自覚した時にはすでに体が動いており、


「……可愛いな」
「えっ」


 裕一郎は目の前にある恋幸の体をそっと抱き寄せる。


「えっ、あっ、くく、倉本さ、」
「よしよし。可愛い、可愛い」
(ひぇ〜っ!?)


 突然のデレ期と抱擁(ほうよう)――何が起きたのか今だに状況判断ができていない彼女の頭を大きな手が撫でるせいで、脳みその処理スピードは急激に低下し言語能力にまで影響を(およ)ぼしていた。