いや、彼も初めから恋幸が金品やそれに近い何かを要求してくるとは思っていなかったのだが、さすがに形にすら残らないどころか彼女一人が得をするわけでもない“もの”を欲しがるというのは予想の範囲から外れていた。


「……そんな事でいいんですか?」
「あっ、勿論あの、倉本さんが嫌じゃなければなんですけど……!」


 それでは私にとっても『報酬』になってしまうので、もっと貴女だけにメリットがある事で良いんですよ。

 裕一郎は寸前でそのセリフを飲み込み、目の前で不安げに眉を寄せている恋幸の頭を優しく撫でる。


「嫌なわけがないでしょう?」
「えへへ、よかったです」