独り言にも似たその呟きを恋幸は上手く拾い上げることができず、裕一郎に目線をやったまま小首を傾げた。


「えっ?」
「何でもありません、私の負けです。貴女の“勝手な提案”に、有り難く乗らせて頂こうと思います」


 彼は長いまつ毛を伏せて緩やかにかぶりを振った後、おもむろに片手を伸ばして彼女の頬に添えると、水色のビー玉に再度その姿を映す。


「ただし、やはり“タダ働き”させるというのは(しょう)に合わないので、何か別の形で報酬を支払わせてください」


 口元に柔らかな弧を描いた裕一郎が低く落ち着いた声で言葉を紡ぎ落とせば、恋幸は一度何か言いたげに持ち上げた唇をすぐに引き結び、2秒ほど目を逸らして考えるような素振りを見せてから改まった様子で彼の顔を見上げた。