キリリと眉を逆八の字にする恋幸を見上げながら、裕一郎は静かに(まばた)きを繰り返し「いや、聞き間違いだろう」と心の中で頷く。
 そして少しの時間を置いてから片手でちょいと手招きをすれば、彼女は大人しくその場に腰を下ろしてゆっくりと彼に体を寄せ、しおらしげに目線を手元へ落とした。


「あの、倉本さん? 私が家事手伝いをする話、承諾(しょうだく)していただけたということでよろしいでしょうか……?」


 まあ……残念ながら『聞き間違い』ではないのだが。


「……先日も言った通り、貴女をタダ働きさせたくないので承諾は出来ません。エアコン代も気にしなくていいと言っているでしょう?」


 ひどく落ち着いたトーンで言葉を紡ぎ落とした裕一郎が片手で恋幸の頭をポンと撫でた途端、彼女は弾かれたように顔を上げて空色の瞳を真っ直ぐに見据える。