しかし惜しくも“その”せいで狙いの的を外してしまい、彼女のキスは裕一郎の(あご)にぴとりと触れただけで終わってしまった。……のだが、恋幸はそそくさと体を離して(まぶた)を閉じたまま「すみません!」と謝罪をこぼす。


「……ふ」
「!!」


 小さな笑い声が耳に届き、彼の片手が恋幸の後頭部をそっと掴んだ。
 次の瞬間――……暖かく柔らかいものが唇に触れ、ワンテンポ遅れてから口付けられたことを理解する。

 驚いて目を開ければ裕一郎の瞳が恋幸の姿を映してわずかに揺らぎ、惜しむように離された唇に彼の吐息が触れた。


(キス、しちゃった……裕一郎様と、キス……)
「……可愛い」