良い意味で苦しくなる胸を両手で抑えれば、常夜灯にぼんやりと照らされた室内で裕一郎が不思議そうに首を傾げる姿が見えた。
 更には彼が少し身動きしただけで石鹸(せっけん)の香りが鼻腔(びくう)をくすぐり、恋幸の理性ゲージは一瞬で0になる。結果、


「結婚してください……」


 ――……同じ過ちを繰り返してしまうのであった。

 しかし『あの時』と決定的に違うのは“裕一郎が恋幸に好意を抱いていることが明らかだ”という状況で、彼女の目線の先にいる裕一郎が「ふ」と小さく息を吐き拒否も受諾(じゅだく)もせずにいる様子を直視しても、恋幸は発言を取り消したりせずにただ静かに次の言葉を待つ。


「……そうですね、そのうち」
「えっ」