恋幸の心臓は爆発寸前であった。
 あれから屋敷内を5分ほど迷った後なんとか裕一郎の部屋に辿り着くことができたものの、彼に言われた通り「それじゃあ、お先に! おやすみなさい!」とすんなり(とこ)につくことなどできるはずもなく。

 暗所恐怖症の彼女を想ってなのか彼の部屋はあらかじめ電気が点いており、足元には昨夜と同じように敷布団が2組セッティングされていた。
 どのような態度で裕一郎を待つべきか? 恋幸が室内をうろちょろしながら考えている間にずいぶん時間が経ってしまっていたらしく、(かす)かな足音がこちらへ近づいてくるのを察知した彼女は(なか)ばスライディングするような動きで自分用の布団の上に澄まし顔で正座する。


「お待たせしました」
「おっ、おかえりなさい!」
「はい、ただいま。……何かありましたか?」
(着流し姿の裕一郎様、いつ見ても人間国宝だなぁ……)


 ……しかし、感情が表情に出てしまう恋幸にしっかりと『澄まし顔』が維持できるはずもなく。