「貴女は……私がそこまで理性の強い人間ではない、と理解できていますか?」
「それ、は、」
「……布団を敷いてきます。お風呂、先にどうぞ」


 裕一郎は恋幸の唇を親指でなぞり、眼鏡の奥にある瞳を意味ありげに細めて手を離す。
 そしてまだ緑茶の残っている自身の湯呑を流し台に運び、一度も彼女の方を振り返ることなく床の間から出ていってしまった。

 残された恋幸はただ高鳴る左胸に手を置いて、彼の放った言葉の意味を考えることしかできない。


「お風呂、入らなきゃ……」





 上の空のまま入浴を終えた恋幸が渡り廊下を歩いていると、ちょうどいいタイミングで裕一郎とすれ違う。