「あ、あの、」
「はい、なんでしょう」


 胡座(あぐら)をかいて座る彼の足の上に腰を下ろして、背後から抱きしめられるような体勢でいる恋幸が遠慮がちに口を開くと、裕一郎は首を傾けてその顔を覗き込む。
 と言っても、座っている状態でも十数センチの身長差があるため真横から見ることは叶わないのだが、何となく視線を察知したらしい恋幸は先程よりも更に体を強張(こわば)らせた。


「その……つかぬ事を(うかが)いますが、私はどうして倉本様に抱きしめていただけているのでしょうか……?」


 あくまでも『自分だけが得をしている』(てい)で落とされたその言葉に対し、裕一郎は思うところがあるのか綺麗な眉を八の字にして唇を引き結んだものの、少しの間を置いてから恋幸のお腹に回していた腕にわずかに力を込めて「それは、」と切り出す。