「な、直したはずなのに……!」
「残念でしたね。まあ、可愛らしいのでそのままでも良いと思いますが」
(へ!?)


 先程から何度も甘い言葉をかけられて、恋幸の頭は今にもオーバーヒートしてしまいそうだった。

 彼女が真っ赤な顔で口をつぐむと、彼は「ふ」と小さな息を吐きスーツのジャケットを脱いで両腕を広げる。


「……?」
「小日向さんに一つ、お願いがあります。抱きしめさせてくれませんか?」
「……!! よ、よろかん……っ、喜んで……」


 噛んでしまった気恥ずかしさと緊張から裕一郎の顔をまともに見ることができず、足元の(たたみ)を見つめたままゆっくりとした動きで彼の腕の中へ収まる恋幸。
 永遠にも思えるそのわずかな時間の中で、時計の秒針の音だけが静寂を支配していた。