ようやく彼女が笑顔を見せた時、裕一郎は引き寄せられるかのように自然な流れで自身の顔を近づけて恋幸の(ひたい)に一つ口付けを落とした。
 驚きから硬直する彼女とは対象的に、彼は落ち着いた様子で体を離して目の前にある長い黒髪を指で()く。


「……すみません。可愛かったので、つい」
「え……? は、はい……あっ、ありがとうございます……」
「こちらこそ。……今朝も思いましたが……寝癖、付いたままですよ」
「え!?」


 一連の出来事にしばらく(ほう)けていた恋幸だが、『寝癖』というワードが耳に入った瞬間ハッとして頭に片手を当てた。
 それを見て裕一郎は「ここです」と短く告げ、該当箇所を長い指で軽くつつく。