おかしな言動があったかどうかで言えば肯定するしかない場面である。
 だが、裕一郎が黙り込んだ様子を見て恋幸が不安げに眉を寄せると、彼は小さな咳払いを一つしてから「いえ、特には」と返し目を逸らした。


「そう、ですか……それなら良かったです」
「……では、仕事があるので失礼します。八重子さんは今日お休みですから、出かける用があれば私に電話してください。家の物は好きに使って頂いて構いませんので、適当にくつろいでいてください。20時には帰ります」
「は、はい。わかりました」


 矢継ぎ早に要件だけ伝えた裕一郎は、「行ってきます」とすぐに背を向けて玄関を出てしまう。
 内側から鍵をかける恋幸の心の中には、漠然(ばくぜん)とした不安だけが取り残されていた。