気づけば呼吸も随分と荒くなっており、密着しているお陰で心臓の高鳴りが腕を伝って恋幸に届いていた。


(あ……裕一郎様、良い匂い……心臓の音も、気持ちいい……)
「小日向さん……本当にいい加減にしないと、」
「……」
「……小日向さん?」


 懲りずに体を寄せてきた彼女に対し裕一郎がもう一度警告の言葉を投げようとした途端、恋幸はぴたりと動きを止めてしまう。

 かと思えば、少し遅れて規則正しい呼吸音が彼の耳をくすぐり、裕一郎が首を起こしてその顔を覗き見ると、恋幸は一人呑気に夢の世界へ飛び込んでいた。
 いわゆる、寝落ちである。


「はぁ……どうしてくれようか……」


 起こしてしまうかもしれない可能性を考えると、自身にしがみつく彼女の体を無理矢理引き剥がすわけにもいかない。
 裕一郎の夜は、まだまだ長くなりそうだ。