心臓の跳ねる音が、喉の奥まで響いているように錯覚する。
 肌寒い夜だというのに火照って仕方のない恋幸の頬に、裕一郎の冷たい指先が優しく触れた。

 ――……彼は今、何を考えているのだろうか?
 恋幸は特に抵抗もせず、呼吸をすることも忘れてただ静かに空色の瞳を見つめる。


「……」


 裕一郎の整った顔が至近距離に迫り、彼の前髪が恋幸の額をくすぐった。


(裕一郎様になら、私……何をされても、)


 彼女にとって今は唯一“それ”が確かな事で、静寂が支配する室内では二人分の呼吸音だけが鼓膜を震わせる。