彼女の問いに対して答えが返ってこないまま、裕一郎の指先がその形を確かめるかのように唇をなぞり、


「……っ、へ……!?」


 一つ、二つ。恋幸の頬に口づけが落とされる。


「く、くら、も……」
「……はい、なんでしょう?」


 裕一郎の口元には三日月が浮かび、空色の瞳が窓から差し込んだ月明かりを反射して(きら)めく(さま)を、恋幸は「綺麗だなぁ」などと他人事(ひとごと)のように感じていた。