「……胃袋を掴まなくても、私はどこにも行きませんよ」
「へ……!?」


 考えを見透かされ耳から首まで赤く染まっていく彼女とは反対に、彼は全く動揺した様子を見せず小さく笑って食事を再開した。
 星川はといえば、そんな裕一郎の言動に驚くやら二人の空気に当てられて暑いやらで、とりあえず温かい緑茶をすする。


「……はい……」


 蚊の鳴く音よりも小さな声でそう返した恋幸は恥ずかしさから二人の方を見ることができず、手元の味噌煮を小さく切って口に含むといつもより多めに咀嚼(そしゃく)した。