そう……何を隠そう彼女は、星川への感謝と愛情で頭がいっぱいになっていたため、ここまでどの道をどうやって歩いてきたか全く見ていなかったのだ。

 更に言うなら、恋幸はもともと方向感覚が(すぐ)れているわけでもない。


「……あの……お恥ずかしい話なのですが、その……ここまでどうやって来たかわからなくて、ですね……」
「ああ、そういうことでしたか……! ふふ。ここは裕一郎様の部屋のちょうど真反対になっていますから、もし迷った時は裕一郎様に聞けば大丈夫だと思いますよ。私がいる時には遠慮なく私を呼んでください、すぐに駆けつけますので」
「ほ、星川さん……」


 ときめいている場合ではないのだが、ひとまず難を逃れた(はずの)恋幸は部屋の隅にキャリーケースをおろし改めて星川に感謝の意を述べた。