ディスプレイに表示されている文字は『清水(しみず)さん』。
 瞬時に仕事の話であると察知した恋幸は、スマートフォンを片手に持ったまま空いている方の手でマウスカーソルを操作する。


「千ちゃん、ごめんね……!!」
『清水さんから?』
「うん!!」
『おっけ! じゃあ、説経の続きはまた今度ね。おやすみ、ひなこも早く寝るんだよ』
「うん、ありがとう! なるべく早めに寝るね、おやすみ千ちゃん!」


 出版業界の仕事に関する話の多くには守秘義務が(もう)けられているため、恋幸は千と通話しながら清水の電話を取ることができない。
 万が一にでも公式発表前の情報が漏洩(ろうえい)すれば、真っ先に責任を問われネット上で非難を受けるのは恋幸だからだ。