「……恋幸さん、泣かないで」


 恋幸から見て右目下にある泣きぼくろ。
 裕一郎は“そこ”にも一つキスを落としたあと、ちゅっと小さな音を立てて今だ目尻に滲む恋幸の涙に口付ける。

 その『おかげ』と言うべきか、その『せい』と言うべきか。
 先ほどまで恋幸の心を侵食していた真っ黒いモヤモヤは一瞬で消えてしまい、今はただバクバクと激しく主張する心臓の鼓動が耳の奥まで響いていた。


(し、下……下の名前で、呼んで……)
「……貴女をそこまで思い悩ませてしまって、すみません。私のせいです」
「ち、ちがっ……倉本様じゃなくて、」


 私のせいです。