恋幸には、わからないことだらけだった。

 自分自身の気持ちはもちろん、裕一郎が今なにを考えているのか。どうして、(ひたい)にキスをしたのか。
 なぜ、抱きしめてくれたのか……全て、理解が追いつかない。


「……謝る必要なんてありませんよ」


 やっと口を開いた裕一郎が落としたのはそんな言葉で、恋幸は反射的に「でも、」と言い返し少し体を離して彼の顔を仰ぎ見た。
 自身を映す空色の双眸(そうぼう)にはどこか優しい色が滲んでおり、恋幸はなぜか目を逸らせなくなる。

 ぱちくりと(まばた)きした拍子に恋幸の目尻から涙が一粒、ころりとこぼれ落ちた。