「……ああ、そういえば」
「……?」


 裕一郎は不意に何か思い出したかのような声を出し、ゆっくりと恋幸から体を離して立ち上がるとサークルの外に出る。
 先ほどの急接近で今だ(ほう)けたままの恋幸はそんな彼の様子をぼうっと眺めていたが、「小日向さん、ついて来てください」と低音で呼ばれてやっと我に返り、言われるがまま裕一郎の後に続いた。





 花専用部屋を出て、広大で美しい庭園を眺めながら長い廊下を歩き、次に案内されたのはなんと裕一郎の自室。
 緊張こそすれど裕一郎に対しての警戒心が0の恋幸は何の疑問も持たず中へ入ると、用意された座布団に座りきょろきょろと辺りを見渡した。