千が恋幸を案じてくれているのだという事くらいは、さすがの恋幸にも理解できている。
 しかし、裕一郎を悪く言われて軽く受け流せるほど彼女は器用な女ではなかった。


「それは……っ、私が無理に誘ったからだよ……!」
『でもね、ひなこ。下心の無い男なんていないんだよ。ひなこは可愛いんだし、さらに直球で好意を向けてきたりしたら、都合の良いように利用してやろう。せっかくだし、1回くらいヤっとくか。そういう風に考えたって、』
「違うもん!!」


 恋幸が勢いよく立ち上がると同時に、キャスター付きの椅子はガタンと音を立てて彼女から少し遠ざかり、グラスに注がれていたメロンソーダの水面がわずかに揺れる。