そんな彼女が己の状況を一度たりとも呪わなかったのは、許嫁(いいなずけ)である和臣(かずあき)の存在が深く関係している。


「幸音さん、ただいま」
「……!! 和臣様……!!」
「離れていたこの数日間、あなたに会いたくて仕方なかった……」
「はい……私もです、和臣様……」


 侯爵家の生まれである和臣は幸音を心から愛し、仕事で遠方へ出向くことがあれば帰宅するたびにその地で撮った写真を幸音に見せる……というのが、二人の間でお決まりになっていた。

 ほとんど外に出られない幸音にとって、自身の世界を広げてくれる和臣の存在がこの世で最も大切な人物になるのは決定事項にも等しく、彼の注いでくれる優しさが生きる活力となっていた。