名前を言い切るより先に、彼の手が吸い寄せられるかのように恋幸の方へ伸びる。
 とっさに唇を閉じて肩をすくめる恋幸を見て、裕一郎は「ふ」と小さく息を吐いた。

 そして、恋幸が先ほど「綺麗だ」と称賛した彼の指が、ゆっくりと彼女の前髪をすくい取る。


「……っ!?」


 バクバクと耳の奥まで鼓動が響き、まるでこの世界に2人きりで取り残されてしまったかのような錯覚をおぼえる恋幸。
 視界のはしで、信号が青色へ変化するのが見える。