すると、裕一郎はなぜか深い溜め息を吐きながら車のハンドルに両腕を置き、その上に顔を伏せる。


「……あの、く、倉本様……?」


 少しの間を置いてから恋幸が遠慮がちに声をかければ、裕一郎は体勢を変えず顔だけを彼女に向け、


「……よく、覚えておきます」


 心地の良い低い声で、ぽとりと一つ言葉を落とした。


「――っ!?」


 ――……その顔に浮かべられた柔らかな微笑みを知っているのは、今この場では恋幸だけである。