もう一度活動を再開すると決めて、必要となる物は揃えた。しかし俺にはもう一つ、必要となる物があった。いや、物ではなく、人だ。俺は自ら歌を歌うことはしない。弟と母の前では披露したことがあったが、世に出すほどの歌声ではない。そのため、俺の作った歌を歌ってくれる人を探す必要があった。

 結論から言えば、それは誰だってよかった。ある程度歌が上手い人。そして、過去の俺の活動を知らない人。俺を、神だなんて崇めるような、馬鹿な真似をしない人。そんな条件をクリアできる人物であれば、特に問題ない。

 そう思っている矢先に出会ったのが、ひよだった。リンと共にベンチに腰掛け、歌を歌っている女子高生。その音程に、一切の狂いは見られない。そして、歌い方に癖もなく、淡々とした歌声をしている。彼女ならば、適役ではないかと判断した。高校生ならば、俺のことも詳しく知らないだろうと。

「千明さんは、自分のこと神がかってるな、とか思いますか」

 出会って一週間ほど経った頃、ひよにそんなことを言われた。彼女の意図はよく分からなかった。だから、俺は彼女に問うたのだ。

「俺は、神に相応しいと思う?」

 彼女はどう答えるだろう。純粋に興味があった。彼女にとって、俺は神ではないだろう。俺は彼女のことを救ってなどいない。だからYESという答えが返って来ても、きっと人々の意見に合わせたか、もしくは俺に気を遣ってのことだろう。どちらにしろ、俺は彼女を少し試したのかもしれない。きっとそれが彼女に伝わったのだろう。彼女は、少し身を硬くした。

「相応しいかは、分かりません。……でも、千明さんを神だと思ったことは、今のところは、ないです」

 彼女から返ってきたのは、そんな回答だった。曖昧だが、俺はその回答を好意的に受け取った。彼女は自分の思っていないことを適当に話すような人間ではないらしい。彼女にとって俺は神様でない。それを、素直に返してきた。それが俺には、居心地の良さを感じさせたのだ。

「俺も」

 彼女の目を見つめ、俺は言う。

「俺も、自分のことを神がかってるとか、ましてや神だなんて、思ったことないよ」

 そう答えると、彼女はどこか安心したような表情をした。

「だからさ、ひよ」

 ここからの言葉は、彼女に対する牽制と言うべきか、呪いと言うべきか。

「これからも、俺の信者になんかならないでね」

 いや、懇願に、近かったのかもしれない。